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「暗殺が成功して良かった」発言についての見解 その2

投稿日:2023年5月9日 更新日:

 島田雅彦氏は、私よりも3歳年下の62歳、いわゆる団塊の世代ではないが、思想的にはリベラル、かなりのレフトウィングである。問題の発言は、同じような思想を持つ、ジャーナリストの青木理氏、京都精華大学准教授の白井聡氏との鼎談の中で飛び出した。問題の発言の後、島田氏は、安倍元首相の選挙区の補欠選挙について、弔い選挙になって、結局坊主丸儲けだとも言っている。だから、有田芳生氏に投票する方がいいということにはならない。「坊主丸儲け」などというのは、そもそも、安倍晋三氏の最後の選挙だと言って奔走している昭恵夫人に対して、「暗殺成功云々」と併せて極めて失礼な発言である。

 島田氏は、自身のことを「リベラル市民」と呼称している。リベラルとは自由主義であり、そのまま日本語にすると「自由主義市民」ということになる。この場合の自由とは、あらゆる既存の枠組みや制約、システムからの自由ということになるが、その自由を履き違えると、「自由放任」「放縦」ということになり、何をしても言ってもいいということになる。少なくとも、我が国における自由のあり方は、「一定のルールや社会常識を順守した上での自由」であったはずだ。権力を全否定し、世の中の常識を逸脱して、勝手気ままにやるということであれば、それは、限りなく「アナキズム(無政府主義)」に近づいていく。

 また、島田氏は、先に挙げた文藝春秋の記事の中で、自身の小説に出てくる黒幕の口を借りて、こんなことを書いている。「アホな有権者目覚めさすにはショック療法が必要や。サーカスゆうても、空中ブランコでも像の曲芸でもない。民衆の不安、興奮、恐怖、感動を誘うスペクタクルのことや。戦争、祭典、犯罪、天災、疫病、支配者は権力を強化するためなら、何でも利用する」これは、ロシアの民衆を扇動してソビエト革命を起こした、レーニンの言辞とそっくりである。彼は、共産革命が、日本の世直しになる決め手だと思っているのだろうか。

小川榮太郎著「作家の値うち」(飛鳥新社 2021年)

 文芸評論家の小川榮太郎氏は、2021年12月に上梓した「作家の値うち」という本の中で、島田雅彦氏について、次のように評している。「私小説的な自己の主題への固執と、自己開放と。このバランスを取ろうとする初期の倫理的緊張は年ごとに薄れ、社会を描くパロディ・エンターテイメント路線に切り替えてからの退屈と不毛は無惨の一言に尽きる」実に辛辣な評論だが、要するに、初期の作品は良かったが、近年の小説はつまらないということだ。そもそも、「暗殺が成功して良かった」などと放言する人間の感性自体、すでに破綻していると思う。

 島田氏は、私よりも3歳年下で、彼のいうリベラル市民のボリュームゾーンである団塊の世代ではない。学生運動の経験もない世代である。問題発言の場に同席し、彼の発言を否定しなかった、ジャーナリストの青木理氏や思想家の白井聡氏も含めて、私よりも下の世代に、「暗殺を肯定するような人種」が変異的に存在することに慄然とするし、情けないと思う、そして、そんな人間が、大学で純粋な学生を教育したり、大手メディアで、多くの視聴者に向かって偏向した発信をしていることに違和感を禁じえないのだ。

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