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祖父が遺してくれた金言

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 私の父方の祖父は、生涯教育者だった。慈愛の教育を説いたペスタロッチを敬愛し、「鉄拳なき教育」を貫いた偉大な教育者だった。苦学して広島高等師範学校を卒業し、大東亜戦争中は、大政翼賛会の和歌山県事務局長を務めた。戦後は、公職追放期間を経て、合併まもない那智勝浦町の町長を2期務め、その後、和歌山県の教育委員長を務めた。幼い頃、祖父に連れられて、街を歩くと、町の人達が「町長さん、おはようございます」と挨拶をしてくれ、祖父は、それに対して一々、山高帽をとって、「○○さん、商売の方はどうや」などと声をかけていた。「社会に役立つ人間にならなければならない」というのが口癖だった。

実家の仕事場に掲げている祖父の自署

 その祖父の座右の銘だったものに、「良き人は常に初心者」という言葉がある。私はこの言葉が大好きである。語源を辿ると、ラテン語の格言に「
善き人は常に初心者なり 」というものがあり、これを、札幌農学校の校長などと務めたクラーク博士が講演などで引用し、それを祖父が座右の銘にしていたようだ。「初心忘れるべからず」という言葉も意味が近いが、物事を始めた熱い想い、そして自身の原点を忘れずに、いつも、新鮮な気持ちで真摯に物事に向き合わなければならないという教えである。

 例えば、新卒でどこかの企業に入社するとする。おそらく、多くの彼や彼女の心の中には、この会社でこういうことをしたい、こういう専門分野を身に付けたい、こういうビジネスパーソンになりたいといった熱い想いがあるに違いない。真面目で努力を惜しまない人は、会社の業務に邁進し、また、専門性を身に付けるべく各種の資格を取得しようと、プライベートな時間を削って勉強したりする。そもそも、特に難関と呼ばれる資格などというものは、勢いのある若い時期に取得するべきものだ。

 ところが、そんな前向きな人でも、同じ組織に長くいると、だんだんと、その風土に染まり、そこにいることが目的化して、だんだんと初心を忘れがちになる。組織風土の「負の機能」である。変革を望まず、問題を先送りし、責任を回避しようとする歪んだ行動基準が定着するようになりがちだ。そのことに気づき、危機感を持つ人は、変革や改善を提起したり、他の部署への異動を希望したりする。さらには、転職も含めて、その組織を去っていく人もいる。

 何を言いたいのかというと、組織というものは、それを構成する個々の人間の考え方とか人格とは、また違う思惑や思考回路、意思決定システムを有しているということだ。その構成員である以上、組織の意思決定には従わなければならない。しかし、人生を真摯に考える人ほど、自分の初心=原点を大事にする、それらの乖離が大きければ大きいほど、人は悩み、葛藤することになる。

 はっきりと言えるのは、そういった時に、自分の原点を明確に「理念」として、心の中に定着させている人は、その葛藤なりを乗り越えていけるということだ。それは目的と手段を峻別して行動できる能力を持っているということであり、また、現実を冷静に見据えて、適正な対応ができる能力を持っているという証でもある。最も、忌むべきは、そういった理念を持たず、目の前の現象に常に迎合し、言行不一致を繰り返す、いわば「思考停止状態」の人間である。こんなのが、組織の長になったりすると、「魚は頭から腐る」ことになる。

 祖父の遺した金言は、令和の時代になっっても、まだ、その価値を失っていない。それどころか、ウイズ&アフターコロナの時代で、ますます、その輝きは増していくものと思っている。

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