いまから9年前、「森林・林業再生プラン」森林組合改革・民間事業体育成検討委員会の席上、委員だった私は、多くの委員が、我が国の私有林において森林整備が進まないのは、森林組合がきちんと本業に取り組まないからだと、森林組合叩き(バッシング)に傾斜する中で、「森林組合を苛めても何も始まらない。彼らを励まし、背中を押してこそ森林・林業再生が前に進むのだ」と発言した。そのあたりから、「イコールフッティング(森林組合と民間事業体を同じ土俵で扱う)」という論調は後退し、森林経営計画や集約化施業など、もう一度、森林組合に任せてみようという流れになった。
一見、森林組合を擁護する発言だとされてしまうかもしれないが、その根底には、現状(その後も殆ど変わっていないが)で、森林組合の本業である、組合員のための森林整備が受託事業という、費用に対する手数料しか入ってこない取引形態で実施されており、ビジネスとしてはまともに成立し得ないものになっているという事実がある。現実として、多くの森林組合は、受託事業よりも粗利益率が高い国有林や旧公団等からの請負事業に、いまだに重きをおいて取り組んでいる。それは、経営を持続させていくためには仕方のないことでもある。
受託事業における手数料(造林手数料)は、現場でかかった費用に対して10%~15%程度、搬出間伐で木材販売が伴えば、販売手数料として7%~10%程度、木材売上に対して設定してるのが実態である。但し、そんな程度の手数料で、事業体として必要な一般管理費をまかない、かつ利益を確保できるかというと決してそうではなく、さらに搬出間伐では、組合員にいくらかでも収益還元をしなければならず、森林組合側に残るお金はごくわずかで、一般管理費さえまかなえないのが実情だ。
「そんなに儲からないというのであれば、手数料自体を上げたらどうですか?」と、これまで、経営診断等で、森林組合の経営者達には助言をしてきた。10%を20%にすれば、それだけ管理費見合いの粗利益が増えることになるからだ。それは理事会で決議すればいいことであり、事務側の人件費や業務に付随する諸経費が上がっていることからも、正当な措置だといえる。販売手数料もそうである。
ところが、手数料を上げるとなると、その分、現場のコストを縮減しないと、組合員に還元ができなくなり、おのずと、生産性の向上というものが必須のものになる。そこがセットにならないと、この方式が進まないのだが、どうもそこがうまくいっていないのだ。事務側と現場側の利害が一致しなかったり、現場での生産性向上を謳い文句にしても、現状の林業機械や作業システムでいくら頑張っても、目標とするレベルにはいかなかったりする。
その点、京都・日吉町森林組合は、組合員の森林の整備や木材生産だけで、組合員にお金を返しながら、きちんと経営を続けている。それに続いて、頑張っている森林組合もたくさんある。しかし、彼らはまだまだ少数派であり、他の森林組合からは特別視されている部分も否めない。そこそこの私有林が管内にあって、木材生産が可能なところは、本業(組合員の仕事)で、管理費をまかなえて、かつ適正な利益(事業利益)も確保できるような形にならないといけないと思う。本業できちんと儲けるようになること、これが森林組合における最大の課題の1つである。
株式会社フォレスト・ミッション 代表取締役、林業経営コンサルタント、経済産業大臣登録・中小企業診断士
我が国における林業経営コンサルティングを構築した第一人者であり、これまで460超の林業事業体の経営コンサルティングに携わる。2015年から、活動拠点を東京から信州・蓼科に移して活動中。