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想い出多き京都ににて

投稿日:2023年2月7日 更新日:

 先週は、水曜日に川崎に移動し、川崎産業振興会館というところで、中小企業診断士の資格更新のために義務づけられている研修(理論更新研修)を受講し、その日は川崎駅近くのホテルに泊まり、翌朝京都に向かい、学生時代からの親友だった、伊住(千)政和君の墓参をした。彼の墓は大徳寺の塔頭で聚光院というところにある。彼が亡くなってちょうど20年になる。享年44歳、あまりにも早すぎる死だった。

 ホテルにチェックインして、タクシーを拾い、堀川通りを北上して、15分ほどで大徳寺に着いた。タクシーには山門前で待ってもらい、境内を4分ほど歩いて、彼が眠る聚光院に行き、事務の人に挨拶をしてから彼の墓前に立った。そして10分余り、ありったけの報告を彼にするのが例年の習わしになっている。それから、再びタクシーに乗り、母校の同志社大学の東門で降りて、しばらくキャンパス内を歩いた。

 千政和君と初めて会ったのは、大学2年の4月、英語の授業の際だった。ウルフという外人の講師が、個々に、英語で自己紹介をするように指示をした。私よりも3列くらいに座っていた彼が、「my hobby is waching pro wrestling」と言ったので、根っからのプロレス狂で、空手道場に通ったり、トレーニングジムに通ったりして、体を鍛えていた私が、それを受けて「my hobby is playing pro wrestling」と自己紹介した。その瞬間、千政和君が、後ろを振り返って私をじっとみた。そして、授業が終わってから、彼の方から歩み寄ってきて、「きみもプロレスファンか」といきなり声をかけてきたのだ。「僕は、プロレスをやりたいと思っているんや」と私が思わず答えると、彼は、「おもろいやっちゃな。僕は千というんや」と豪快に笑った。

 それを起点にして、彼が44歳で早世するまで、25年間、彼との交流が続いたのだ。特に、学生時代の3年間は濃密で、二人で学生プロレスの団体を創設、同志社プロレス同盟というが、学生プロレス団体の草分けともいえる存在で、ここから、私が把握しているだけで、3名のプロレスラーを輩出している。彼は、茶道裏千家家元二男という超一流の家柄にしては、ざっくばらんな人柄で、誰に対しても同じような態度で接し、しかも、中村勘九郎似の男前、気前が良くて、話し上手、歌も上手い、いいところばかりの人間で、そんな彼が、私のような田舎者で、朴訥な人間を近しい友人として扱ってくれたものだと、今でも信じられないくらいである。

 彼との想い出は、尽きることがないくらいで、今でも私の宝物となっている。実は、昨日も彼の夢をみた。京都に行ったので、潜在意識の中の彼が出てきたのだと思う。それも例年のことだ。夢の中の彼は、実に雄弁で、明るく、得意の物真似やジョークを連発して、周囲の者を愉しませてくれる、根っからのエンターテナーなのだ。今でも鮮明に覚えている、田中角栄や田中邦衛の物真似は、天下一品だった。

 後にも先にも、私には親友と呼べる友人は、彼以外にいない。それくらい、彼は素晴らしく魅力的な人だった。誰からも好かれ、愛された彼が、44歳という年齢で往ってしまい、私のような凡人が、彼の死後、20年も馬齢を重ねている。皮肉なものである。彼が存命ならば、64歳で、お互い、それなりの年齢になり、長い付き合いなりのくだけた会話を愉しむことができただろう。私も私なりに懸命に生きていた、その姿を彼に見て欲しかった。夕暮れ時に、ホテルに戻り、彼を想って一句詠んだ。「もの言わぬ 親友(きみ)の墓前に しばし立ち 積もる話は すべてできず」

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