アマゾンプライムで、役所広司主演の「PERFECT DAYS 」をじっくりと観た。この映画は、第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、彼が日本人俳優としては男優賞を受賞した 作品である。東京の渋谷区にある公衆トイレの清掃員として働く中年の男の日常を描いたもので、日本では昨年12月に公開され、世界で約37億円の興行収入を得た話題作である。 公開された際、東京の映画館に行って観る予定にしていたのだが、仕事を優先した形になり、アマゾンプライムで観ることになった。
役所広司さんは、我が国の俳優では断トツの名優だと思っている。私よりも2才年長の68才で、年齢を重ねるほどに、その演技の円熟味が増して、国際的な俳優として高い評価を得ている。その役所さんが、公衆トイレの清掃作業員を演じるということで、ずっと気になっていた映画だった。ドイツ人の監督で、小津安二郎の世界が底流にある映画であり、淡々とした時間が流れていく中で、役所広司演じる「平山」という人間の「誠実さ」「生真面目さ」「職人気質」といった人物像が随所に描かれていて秀逸な作品になっていると思った。但し、個人的は、映画館に行ってまで鑑賞する映画かなというところはある。
我々のような年齢になると、それなりに長い間生きてきた帰結としての人生観が構築され、独自の価値観や基準に準拠して、日々の行動が形成されるようになる。それは、平たくいえば「頑固さ」ということになるが、よくいうと「ブレない生き方」ということになる。この映画を観ながら、つらつらと考えたことがある。それは、「一つのことを長くやり続ける」ということの意義、そして、そのことで培われるさまざまな価値観の重み、それを「佇まい」として備えている人間のある意味での「美しさ」等々である。
私を含めて、多くの人間は単純で俗っぽいから、物事を「好きか嫌いか」で判断したり、できる限り「好きなこと」をしようとするものだ。仕事についてもその傾向は否めない。人付き合いになると、それが覿面となる。しかしながら、世の中の仕組みやルールは、そう単純ではなく、特に組織社会に身を置く以上、さまざまな柵(しがらみ)や葛藤の中で、ストレスを感じつつ、日々を生きることになる。その文脈でいけば、「PERFECT DAYS」の主人公である、役所広司演じる「平山」の生き方は、そういうところからは、かなり距離を置いた、「ベターな生き方」だと云えるだろう。
自分の生き方について、それが「正鵠を射ているかどうか」や「充実しているかどうか」など、他者が決めつけるものではなく、本人がそう認識していれば、多分そうなのだとするべきだ。勿論、公序良俗に反することをしていない、他人や社会に迷惑をかけていないという前提はあるにせよ、この国に生きる多くの人々は、社会的常識を持って、日々、懸命に働き、真面目に生きているという実態がある。残念ながら、その主軸から外れてしまった者は、自らの居場所を失って半ば漂流する人生を送る羽目になりがちだ。特に、年をとってからの漂流は、挽回することが難しく、その人間にとってとても辛いものになる。「自分に嘘をつく」生き方をしてはいけない。
役所広司主演の映画から、とめどもなく思索が広がってしまったが、最近は、一つの事象や風景、樹木の姿などに触れるにつけ、人間の生き方や価値観などに結びつけて考えるようになった。それだけ、歳を重ねたのだと思う。
株式会社フォレスト・ミッション 代表取締役、林業経営コンサルタント、経済産業大臣登録・中小企業診断士
我が国における林業経営コンサルティングを構築した第一人者であり、これまで460超の林業事業体の経営コンサルティングに携わる。2015年から、活動拠点を東京から信州・蓼科に移して活動中。