ネット上などで、官民協働のビジネスだったから失敗したなどというコメントがあったが、私自身は、兵庫モデルといわれる五者協議会による「官民一体の事業運営」は、ある意味、理想的だと考えていた。外形的にみても、この運営体制にほぼ欠点はなく、そして、FIT制度という20年間に亘り事業が安定して継続するという「公的な仕組み」に基づいて事業が運営されるという点でも、何ら問題はないとみていた。ただ、1点の前提条件を除いては…である。
その前提条件とは、兵庫県森連が運営する「チップ工場からの燃料用チップが、間断なく安定的に供給される」ことである。つまり、チップを燃やして、発電用タービンが、年間を通じて設備の点検等の期間以外は稼働し続けるということが、この事業の成否の鍵を握っているということ。その部分を、兵庫県森連が一手に担ったということになる。基本的に、傘下の森林組合から、搬出間伐などで出てくるCD材を集材してチップ化し、隣接するバイオマス発電所に供給するのが兵庫県森連の役割だった。
「兵庫県森連のチップ事業が大変なことになっている」という複数の情報が、私のところに入ったのは、2019年の年末頃だった。この時期は、まだ、コロナ禍さえ始まっておらず、マスクをして歩いている人などいなかった。我が国におけるウッドショックが始まる1年以上前の時期である。その情報によると、チップ用の原木の実勢価格が高騰し、兵庫県森連が当初、値決めをしていた価格では、集荷できなくなり、自腹を切って実勢価格に上乗せをして集荷しているうちに、自社の赤字が莫大な規模になってしまっているとのことだった。
兵庫県・赤穂市にあるバイオマス発電所は、間伐材以外の燃料も使う、いわゆる「混焼型」の大型バイオマス発電所で、朝来のバイオマス発電所の2年前の2015年度から稼働をスタートさせていた。いうまでもなく、間伐材や未利用材よる売電価格が他の燃料よりも高いので、ここの発電所でも当初から間伐材による燃料用チップを積極的に買い付けていた。そして、兵庫県における林業のメッカは、資源的にも西側の地域であり、事業者は買い取り価格が良ければ、輸送費がかからない近くのチップ工場に持っていく。
兵庫県森連のチップ工場が、傘下の森林組合等から集荷していた、チップ用原木価格の単価は、公表されているように@6,700円/tだった。発電所が稼働する2016年の時点で、また、地域での実勢価格を鑑みて、この単価を値決めしたと想定されるので、その時点ではそれで良かったのだろう。しかしながら、競合する県内のバイオマス発電所、例えば、上記の赤穂市の工場にチップを供給するチップ業者が原木価格を引き上げた場合、相場、すなわち実勢価格は上昇する。
株式会社フォレスト・ミッション 代表取締役、林業経営コンサルタント、経済産業大臣登録・中小企業診断士
我が国における林業経営コンサルティングを構築した第一人者であり、これまで460超の林業事業体の経営コンサルティングに携わる。2015年から、活動拠点を東京から信州・蓼科に移して活動中。