ここ蓼科は、朝はマイナス6度くらいまで冷え込み、ひたすら冬に向かっている。今年の冬は、かなり厳しくなりそうだと、地元の人たちも言っている。雪が深くなるというよりは、底冷えがきつくなりそうだということだ。横浜から蓼科に移住して丸6年が過ぎたが、真冬の寒さには、まだ慣れていない。生活そのものは、各種の防寒をしておけば、まず問題がないが、屋外の寒さは尋常ではない。しかし、個人的には、森閑とした蓼科の冬はとても好きだ。
今から15年前、私は、我が国の「森林・林業再生」という、大きなプロジェクトに参画し、富士通総研主任研究員(当時)の梶山恵司氏や日吉町森林組合参事(当時)の湯浅勲氏、森林科学者の藤森隆郎博士らとともに、我が国人工林のあり方・森づくりの改革、森林施業プランナー育成、提案型集約化施業の推進、林業事業体の経営改善等々に取り組んだ。自分自身にとっては、まさに「人生を賭けた」社会的にも価値のある取り組みだった。
手入れが進まないまま、推移したら、我が国の林業は業として成り立たなくなるという危機感をもって、実務者の人たちとともに、取り組みを進めた結果、森林経営計画などの制度改正などもあり、3分の1程度の人工林は、何とか必要とされる管理をされ、そこから、建築用材・合板材・燃料材などが搬出され、需要側に供給されている。同時に、森林の公益的機能も、その森林については、維持されているといえる。
しかしながら、全体の約7割を占める民有林のうち、上記の3分の1以外の森林は、人工林であるにも拘わらず、殆どが放置され、その半分程度は、所有者不明とか施業が不可能な立地等々のさまざまな理由で、事実上再生不可能になっているといわれている。そして、手入れがなされている森林とそういった再生不可能な森林の中間にある森林が全体の3分の1程度存在するということだ。
約3割の国有林は、国が自主管理するもので、極論すると経済原理とは別の次元で管理されている森林だから、横に置いておくとして、約3分の2が人工林(生産林・経済林)としての機能を失っていたり、失いかけている民有林の森林整備・管理を、これからどうしていくのか、従来の補助制度やほどなく本導入される森林環境税で、どこまでカバーできるのか、そもそも、きちんと持続可能な森林整備をしていくための労働力・担い手の方は大丈夫なのか?
「絶望の林業」という本が、一時期、話題を呼んだが、私は、いまでも我が国の森林・林業が絶望的だとは思っていない。活路はまだ十分に存在するという確信もある。ただし、そのための条件整備に、相当な労力と資本が必要になる。その中心となるのは、おそらく、行政機関でも林業団体でも研究者でもない。いうなれば、そういった、これまで森林・林業を支えてきた者と共通の目標を持ち、協働していこうとする、自らの良心に基づき、正しいことを正しく実行していく者である。
私は、来年65歳になる。あと10年、この国の森林・林業のために、もう一踏ん張りしてみようと思っている。正しい方向、正しい道、あるべき姿などを説き続け、部分的であっても実践に移していく、そんな活動をしたいと思っている。コロナ禍で、2年間ほど、殆ど、まともな活動ができなかったが、そろそろ、現場にも行けるし、関係者の人たちとも、密な交流ができる環境が戻ってきた。もちろん、まだまだ安心はできないが、森林は、人間の都合で整備・管理をしていくものではない。私にも、私の仲間にも残された時間があまりない。森林にも同じことがいえる。しかし、違うのは、きちんとした森づくり思想・施業管理の設計のもとに整備を進めていけば、我が国の森林は蘇る。そうした果実や希望を後生の人たちに受け継いでもらうべく、いまに奮闘するべき立場に置かれているのが、我々の世代なのだと思っている。
株式会社フォレスト・ミッション 代表取締役、林業経営コンサルタント、経済産業大臣登録・中小企業診断士
我が国における林業経営コンサルティングを構築した第一人者であり、これまで460超の林業事業体の経営コンサルティングに携わる。2015年から、活動拠点を東京から信州・蓼科に移して活動中。