兵庫県庁内の公益通報により、斉藤元彦知事が、パワハラ等の疑いをかけられ、その後、百条委員会で真相究明の動きとなり、その最中で県議会による不信任が可決され、同知事は失職、先月実施された知事選挙で、対立候補を大差で破って再選された。新聞・テレビ等のいわゆる「オールドメディア」は、事象発覚当初から、斉藤知事を一方的に糾弾する論調に明け暮れ、彼の社会的信用や人間としての尊厳を貶めるような報道を繰り返したが、結果として、兵庫県民の民意は、斉藤知事に県政を委ねることを選択した。某キャスターが、「メディアの敗北」と自嘲したが、そうではなく、「大手メディアの劣化の自己証明」に他ならないと私は断じている。
そうはいいつつも、斉藤知事が全て正しかったなどというつもりは毛頭ない。結論からいうと、斉藤知事本人も、県議会の構成員も、メディアも、それぞれに瑕疵があり、問題を複雑化させた責任を負っていると考えている。まず、斉藤知事、当初からの言動は、明らかに人間としての未熟さを露呈している。公益通報し、その後自死した県民局長のことを「業務時間中に噓八百含めて、文書を作って流す行為は公務員として失格だ」と切って捨てた。いくら感情的になっていたとしても、組織のトップに立つ者として、こんな発言をするべきではない。
それから、県議会の議員達、斉藤知事が急進的な改革を進めることが彼らにとって不都合だったとしても、単なる噂話や非公式なアンケートなんかを丸呑みした形で、百条委員会を組織し、「知事がパワハラをやった」といった結論ありきの追及は論外である。結果的に、そのような確たる事案はなかったとの事実が表面化するにつけ、兵庫県のみならず、全国に恥を晒す羽目になった。その百条委員会の結論が出ない段階で、知事の不信任決議をして、知事選挙で彼らは結果的に敗北、知事追い落としに中心的だった県議は、早々に辞任・逃亡した。情けない限りである。
加えて、新聞・テレビ等の大手メディアである。ワイドショーなどは、連日、斉藤知事に批判的な報道やコメントを量産し、名誉毀損に相当する悪罵を公共の電波で垂れ流したが、you tubeなどSNSに抗せず、某キャスターのいう「メディアの敗北」宣言に至った。もっといえば、NHK党党首の立花孝志氏一人の発信力に束になってかかっていっても勝てなかったのだ。敗北したというのであれば、メディアは、立花孝志氏たった一人に負けたというべきだろう。
ついでにいうと、斉藤陣営の広報戦略を任されたと、その詳細をnoteで公表した、西宮のPR会社の女性社長のことである。ある情報によると、起業してから、神戸市や西宮市、広島市、藤沢市などのSNS戦略等、プロポーザルを含む数多くの行政案件で、電通や楽天などの大手と競合して受注してきたという実績を積み重ねている。かなりの遣り手だと云える。今回の知事選挙についてはポスター制作費など71万円だけもらっただけ、肝心のSNS戦略構築はボランティアでやったということで、「それならば、その実績を自社のPRに使わせてもらう」というような思いや打算の発露があの発信だったのではないかと私は踏んでいる。
結果的に、その軽はずみともいうべき行動が、彼女にとっての「オウンゴール」となった。遅きに失するが、彼女のとるべきだった賢明な方法は、「あの広報戦略を練って、仕組みを構築したのは○○だ」ということを、本人ではなく、影響力を持つキーマンに「ささやいてもらう」ことだった。いわゆる「レピュテーション・マネジメント」である。本人がいうから「守秘義務違反」とか「業界ルールに反する」とか、果ては「公職選挙法違反」などと袋だたきに遭うのだ。その辺りは、まさに未熟そのものと言わざるを得ない。
以上、今回のことは、誤解を恐れずにいうと、思慮が浅く、未熟な人間達や組織が繰り広げた「馬鹿騒ぎ」に他ならない。そんなものに振り回され、選挙費用たる公金を費消された兵庫県民こそいい面の皮である。但し、立花孝志氏の「超人的な?」活躍もあって、兵庫県民は、その意思決定として斉藤元彦知事を再選した。少なくとも、彼らが主体的に情報収集し、それらを吟味、その結論を投票行動に反映させた結果であるから、これに対して、何人も異を唱えることはできない。虚実の情報が混在する昨今の社会においては、自分の五感で検証したことを、自分の頭で咀嚼し、そして自己責任において意思決定し行動しなければならないということを、兵庫県における今回の事象で身に沁みて実感した人は案外多かったのではないかと思っている。
株式会社フォレスト・ミッション 代表取締役、林業経営コンサルタント、経済産業大臣登録・中小企業診断士
我が国における林業経営コンサルティングを構築した第一人者であり、これまで460超の林業事業体の経営コンサルティングに携わる。2015年から、活動拠点を東京から信州・蓼科に移して活動中。