京都での学生時代、3回生から2年間に亘り、銀閣寺から南禅寺に向かう「哲学の道」沿いにあった「若王子(にゃくおおじ)」という喫茶店で、ウエイターのアルバイトをした。その店は、「燃えよ剣」の土方歳三役で一世を風靡した、俳優の栗塚旭さんがオーナーで、同氏が永年蒐集した品々を飾り付けた、アンティーク喫茶で、私は、学生相談所でこのアルバイトをみつけた。栗塚旭さんは、時々、この店に顔を出して、私たちアルバイトを夕食に連れて行ってくださった。京都・三条にあった「グリルミヤタ」という洋食店のハンバーグとポタージュスープが飛びきり美味しく、「こんなに美味しいものが、この世にあるのか」と、そこに連れて行ってもらうたびに感動していた。
前置きが長くなったが、蓼科に来てから10年近く、ずっと散策道にしている、自宅近くの道を、私は密かに「哲学の道@蓼科」と呼んでいる。往復、35分ほどの距離だが、四季折々の風情を愉しみつつ、いろいろなことを考えながらゆっくりと歩く、お気に入りの散策道である。今日も、午後から、独りで散策を楽しんだ。途中、小さな沢があり、そこに流れる水をしばし観る時間は、なかなか味わい深いものがある。

水の流れは、絶えることはなく、しかも遡及することはない。それは時間と同じで、水の流れをみるたびに、時間の流れというものと重ね合わせて思索することになる。この歳になると、いずれやってくる自分の終末というものを意識するようになり、それに紐付く「死生観」が醸成されてくるものだ。いかに生きて、いかに死ぬかという死生観を明確に持っている人は、その生き方自体に「決然さ」を感じて、傍目にも気持ちがいい。できれば、そういう佇まいを身につけておきたいと日々思っているところだ。そういうことを考えながら、俗称「蓼科の哲学の道」を連日、歩いていて、その営みを結構気に入っているのだ。

株式会社フォレスト・ミッション 代表取締役、林業経営コンサルタント、経済産業大臣登録・中小企業診断士
我が国における林業経営コンサルティングを構築した第一人者であり、これまで460超の林業事業体の経営コンサルティングに携わる。2015年から、活動拠点を東京から信州・蓼科に移して活動中。