戦後、我々の世代を含めて、殆どの人が「日本は第二次世界大戦で敗北し、ポツダム宣言を受諾、連合国に無条件降伏した」という「歴史」を学校で習い、これを信じてきたし、いまだにその状況は変わっていない。私自身は、学生時代から明治維新、日清・日露戦争、第一次世界大戦、大東亜戦争と敗戦、そして戦後復興に至るまでの通史を、さまざまな書籍を渉猟し、自分なりの歴史観を培ってきた。その中で、教科書的な第二次世界大戦における、我が国の無条件降伏というところには、大いなる疑問をずっと抱き続けてきた。
「無条件降伏したから、連合国なり、その中核を為す米国のいうことを全て受け入れなければならない」「在日米軍の存在を含めて、日本は米国の属国である」といった論調も、その淵源は、昭和20年8月14日のポツダム宣言受諾と無条件降伏にあるといって過言ではないだろう。ちなみに、山川出版社の「日本史小辞典」の「ポツダム宣言」の項では、「全13条、第6条以下の日本の降伏条件は、軍国主義の除去、保障占領、カイロ宣言の履行、日本の主権の本土4島への制限、軍隊の完全な武装解除、戦争犯罪人の処罰などであった。7月28日鈴木貫太郎内閣は、軍部の圧力により、「黙殺」するとの声明を出したため、連合国側は拒否とうけとり、原爆が投下され、ソ連も参戦。その結果、8月14日の御前会議で日本は宣言の無条件受諾を決定した。」となっている。
山川出版社といえば、日本史や世界史の定番の教科書を出版しているところで、この分野における権威を持った出版社である。その教科書でもって日本史を学ぶ生徒は、「教科書に書いてあるから正しい歴史だ」と先入観でもって鵜呑みにしてしまうのが普通だ。上記の「ポツダム宣言」の説明も、疑問符がつく記述があって、特に問題なのが「連合国側は拒否とうけとり、原爆が投下され、ソ連が参戦・・・日本は宣言の無条件受諾を決定した」というくだりである。時系列ではそうなっているが、ポツダム宣言を拒否したことと、広島・長崎への原爆投下、ソ連参戦は直接は紐付かないことは、その後の関連資料で明らかになっている。要するに、米国はソ連に日本占領の先を越されたくなかった(日本の赤化を恐れた)ので先手を打ったというのが、蓋然的事実だろうと私は踏んでいる。
そこで、改めて、大日本帝国の戦争犯罪人を裁いた「東京裁判」において、東条英機元首相の弁護人を務めた清瀬一郎氏が、昭和42年(1967年)に上梓した「秘録・東京裁判」(読売新聞社刊)の文庫版(中公文庫刊)を再読し、日本は無条件降伏ではなかったという思いを新たにした。まず、ポツダム宣言とは、1945年(昭和20年)7月26日に、米・英・中華民国の三国が発した、日本に対する「降伏の条件」である。その内容は、前述のように13条で構成されており、その1条は以下のように書かれている。「われら合衆国大統領、中華民国政府主席及び「グレート・ブリテン」国総理大臣は、われらの数億の国民を代表し協議のうえ、日本国に対し、今次の戦争を終結するの機会を与うることに意見一致せり。」つまり、連合国として、この戦争をもうやめてはどうか」という勧告ないし提案であり、そのための条件を2条以下で示したということだ。
諸条件の中でも重要なのは、第13条である。「われらは、日本国政府が直ちに全日本国軍隊の無条件降伏を宣言し、かつ右行動における同政府の誠意につき、適当かつ十分なる保障を提供せんことを同政府に対し要求す。右以外の選択は、迅速かつ完全なる壊滅あるのみとす。」これが13条の全文である。この文言を額面通り解釈すると、「連合国は、日本政府が陸海軍の無条件降伏を宣言、武装解除し、彼らに対して十分な(生活)保障をすることを要求する。そうしなければすぐにでも攻撃して壊滅させる」ということになる。つまり、無条件降伏(武装解除)は、日本国に対してではなく、陸海軍の軍隊を対象としたものだったということなのだ。
それと、ポツダム宣言では、「国体の維持=天皇制の継続」については触れていないが、日本側が、ポツダム宣言受諾の条件として、これを認めるよう交渉し、米国側がこれを了承したことで受諾となった。つまり「無条件降伏」ではなくて、「条件(天皇制維持)付き(陸海軍の)無条件降伏の受諾」だったわけで、先に挙げた山川出版社の「日本史小辞典」の説明は的を射ていないことになる。私は、必ずしも、後付けで論評する「歴史修正主義」を支持するものではないが、この件に関しては、やはり、「日本国は無条件降伏をしていない」という考え方に立っている。
大日本帝国陸海軍は、天皇陛下のご意思に反し、また、文民統制も効かず、無謀な戦争に突入してしまったのかもしれないし、東京裁判でその「犯罪性」が裁かれ、東条英機被告らが絞首刑となった。この裁判の是非についても終戦80年を迎える来年あたりまでには、きちんとした我が国としての見解を示していくべきだと思う。そして何よりも、国家として無条件に降伏などしてはおらず、ゆえに、アメリカやイギリス、まして中国(中華民国とは全く別の国家である)ロシア、さらには韓国などに、上から目線であれこれ指示されたり内政干渉されることなど断じてないのだと、我々も日本国民として「ハラをもっておく」べきだと考えている。
株式会社フォレスト・ミッション 代表取締役、林業経営コンサルタント、経済産業大臣登録・中小企業診断士
我が国における林業経営コンサルティングを構築した第一人者であり、これまで460超の林業事業体の経営コンサルティングに携わる。2015年から、活動拠点を東京から信州・蓼科に移して活動中。