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ビートルズに嵌らなかった理由

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 団塊の世代の人たちは、とにかく、ビートルズが大好きである。私と同年代や下の世代の人間でも、いまだにビートルズを信奉している者が多い。高校生の頃だったか、そういう人たちを、「洋楽派」などと言い、これに対して、専ら、日本の曲を好んで演奏したり歌ったりする者を「邦楽派」と呼んでいた。非常に大雑把な類型ではあるが、私自身は、洋楽派は、比較的裕福で、いわゆる「ハイカラ」な人たち、これに対して、吉田拓郎や井上陽水、かくや姫などを信奉する人間は、どちらかというと中流かそれ以下で、「もっさり」した感じである。

 ちなみに、私は、明らかに「邦楽派」である。というよりも、洋楽は、ラジオなどで聴いてはいたが、全く耳に入ってこず、高校生の頃にビートルズなどのレコードを何枚か買って、一生懸命聴くのだが、心に響くことはなかったのだ。まず、英語がわからず、何を言っているのか全くわからない。それで、その歌詞をよく知ろうと思い、英和辞典を引きながら、ビートルズやサイモン&ガーファンクルなどのヒット曲の歌詞を自分で和訳してみた。それは、「歌詞と楽曲がよく合っているのがいい曲」「歌を聴いて、その情景が目に浮かぶのが名曲」などという、自分自身の定義を持っていたからだ。

 例えば、オフコース時代の小田和正が作詞・作曲した「さよなら」という名曲がある。出だしのフレーズは、「もう終わりだね きみが小さくみえる」である。この、わずか17文字だけで、男女の別れの情景が復元できる。マイナーコードから始まる曲も端的で非常にせつない。また、忌野清志郎作詞、井上陽水作曲の「帰れないふたり」という名曲があるが、最初のフレーズは、「思ったよりも夜露は冷たく…」というもので、恋人同士が遅い時間まで一緒にいる状況を示している。私は、こういう曲を名曲と信じて疑わず、その後、約50年に亘って、そういう曲ばかり、弾き語りで歌っている。

 その上で、ビートルズである。1965年にリリースされた、彼らの代表曲でもある。曲は聴きやすく、さすがに洗練されていると思うのだが、歌詞がとんでもなくひどいのだ。出だしのフレーズは、「Yesterday all my troubles seemed so far away. Now it looks as though they’re here to stay. Oh I believe in yesterday」であり、直訳すると「昨日 私のすべての煩悩は、遠く離れたところにあるようだった。 今では、それらは ここに留まっているかのように思える 私は 昨日を信じている」となる。全く、意味不明で情景の復元どころではない。

 「Let it be」という曲などは、その出だしの歌詞で、いきなりマリア様が登場して、苦難の中にある自分に 「Let it be(あるがままに)」と告げるという、キリスト教の信者にしか通じないフレーズとなっている。私も一応、日本聖光公会で洗礼を受けた者だが、全然イメージが湧かない。普通の日本人には全く響かないフレーズであろう。それを、当時の若者、特に団塊の世代の人間たちは、この曲を崇めたて、聴いたり歌ったりして酔い痴れていたのだ。

 誤解を恐れずにいえば、ビートルズの曲というのは、まず、楽曲があって、その曲調に合わせたフレーズを、後付けしたものだということだ。そして、歌詞の内容は、一応、哲学的なものを匂わせていたり、キリスト教的な世界を示唆しているのだが、キリスト教徒である外人はともかく、殆どがそうではない日本人が熱狂するようなものではない。おそらくは、ろくに歌詞の意味もわからず、群集心理的に多くの若者が傾倒していったのだろう。

 日本語をこよなく大事にしたシンガーソングライターは、何と言っても小椋佳である。この人は、北原白秋や谷川俊太郎、中原中也らの詩の影響を受け、そして、自身の感性でもって作詞をして、それに曲をつけたと私は思っている。彼の初期の作品に、「旅支度」という曲がある。出だしのフレーズは、「あなたひとりの 旅の支度を 手伝うときの やり場のなさは どこに捨てましょう」である。銀行員で単身赴任をしている彼の出張準備を夫人が手伝う際の心の動きを表現している歌詞とされるが、とても秀逸な詩だと思う。

 偉大なビートルズの曲が、全く心に響かず、小椋佳などの曲を支持し、そういう曲をギターで弾き語りしたり、自ら作詞作曲もしてきた。それは、私自身が日本人だったからであり、その日本人としての自覚、そして、日本人としての存在理由を追求する中で、行き着いた境地だったのだと、今にして思うのだ。

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