木材生産・流通の総事業費は、木材価格の向上が見込めない現状で、まだまだ、創意工夫をして縮減し、補助金を活用しつつ、山元に少しでも多く還元していかなければならない。「山側のコスト縮減は、もう限界に来ている」という意見もあるが、まだまだやれることはあると、湯浅勲さんはじめ、チーム・フォレストミッションのメンバー達と日々話し合っているところだ。
仮に、1m3あたりの伐倒から集材・造材、土場までの搬出・選別までのコストが、林分調査費用を入れて9,000円とする。土場から木材市場や合板工場、チップ(バイオマス発電)工場までの平均運賃が2,000円/m3として、木材生産・流通の総コストは11,000円になる。補助金が4,000円/m3ほど入って、木材販売の手取額の平均額がスギで9,000円/m3とすると、森林所有者に返す金額は2,000円/m3ということになる。1haあたり80m3搬出したとすると、森林所有者への返却額は、16万円/haということになる。しかしながら、このモデルには、路網開設の費用が入っていない。森林作業道の開設にも補助金がつくが、全額ではなく、当然補助残が生じて、その分が所有者還元額に食い込むことになり、それが仮に1,000円/mだったとして100m/ha開設したとしたら、10万円になり、所有者還元額は16万円から6万円になってしまう。1,500円の負担になると、還元が殆どできなくなる。
搬出間伐で、5,000円/m3程度返している事業体もある。80m3/haくらい搬出材積があるとして、haにすれば40万円手取りがあることになり、3haであれば120万円である。1回の搬出間伐で、これくらい手取り(立木代金)があれば、森林所有者も森林経営に対してもっと意欲的にはなるだろう。日本とよく比較されるAustriaでは、林野庁の調査データによれば、向こうの立木代は、主伐でほぼ8,000円、間伐で7,000円弱となっている。そこまではいかなくても、主伐で6,000円、間伐で4,000円くらいの還元ができれば、所有者の意識もずいぶんと変わってくるものと思われる。
伐倒から搬出までのコストを縮減するには、当然、各工程間の生産性格差を極小化する「工程管理」が必要になるし、作業システムにおいて、投入する林業機械が持つ生産・処理能力を最大限にもっていき、結果的に工期短縮をしていく。そして、そこで重要になってくるのが、効率的な路網=森林作業道の配置と開設である。湯浅さんが、ライフワークにしている「壊れにくく、効率的で生産性の上がる作業道の開設」が、現場の大幅なコストダウンをもたらす原動力になる。
一方で、トラック輸送費は、現場での人件費、機械経費と並ぶ、第三の経費といわれており、ここの縮減が総コストの低減に大きなカギを握っている。Austriaでは、製材工場など木材需要側がトラックを手配し、土場まで引き取りに行っている。我が国では、殆どの場合、山側がトラックを手配して、木材市場や製材・合板等の工場に輸送する「工場着方式」が通常になっている。私見だが、木材市場は別にして、これをAustriaのように、需要側が配車するようにしてもらったらどうか。彼らの方が規模が大きいし、スケールメリットによるコストダウンも可能だろう。そういう方法で、2,000円/m3が1,500円になり、土場単価が500円低減できれば、それを森林所有者に返す原資にできる。
搬出コストの縮減は、山側の使命として、弛まず継続して取り組みを続けていかなければならない。調査コストの縮減も、一部、ICTの活用等で実現する可能性がある。木材を1円でも高く販売する努力も必要だ。但し、現場技能者の賃金は、とにかく上げることはあっても、下げることは許されない。間伐のための補助金や林業機械への補助金が給付されているうちに、いわゆる経済林においては、4,000円/m3以上の森林所有者(山元)への還元を実現することが肝要だ。トラック輸送費の問題は、その大きな要素となる。
株式会社フォレスト・ミッション 代表取締役、林業経営コンサルタント、経済産業大臣登録・中小企業診断士
我が国における林業経営コンサルティングを構築した第一人者であり、これまで460超の林業事業体の経営コンサルティングに携わる。2015年から、活動拠点を東京から信州・蓼科に移して活動中。