
フジテレビが、いわゆる「中居正広問題」で、スポンサー離れが雪崩状態となり、経営危機に陥っている。テレビ局出身者(といっても私の場合は地方のローカル局だが)として、看過することもできず、この問題に触れておきたいと思う。私が近畿放送の東京支社に勤務していた、1980年代の終わり頃、バブル経済の真っ只中だが、放送業界は未曾有の好景気で、フジテレビはその中でも群を抜く業績を誇っていた。
当時、近畿放送テレビのゴールデンタイムの15秒のテレビスポットが、1本3万円くらいだった。これに対し、フジテレビの全国放送の15秒CMが300万円で、近畿放送の100倍だった。日産自動車だったか、午後8時台で同じCMを流して、これである。「アホらしくてやってられない」というのが、当時の近畿放送東京支社の営業マンだった私の本音だった。知り合いのフジテレビの営業に聞くと、そんな金額でも枠がなくて、電通や博報堂等の広告代理店から「何とかしてくれ」と接待を受ける状況だということだった。平日の3日は、接待か業界ゴルフで、ほぼ毎晩酒席があり、「遊ぶのが仕事だ」と彼は笑っていた。
フジテレビの年商は、2022年度で2,374億円ということだ。今回のスポンサー離れで、倒産ということにはならないとは思うが、名だたる広告主がCM出稿をやめて、そのまま元に戻らなかったら、系列局も含めて極めて厳しい経営状況になる可能性がある。そうなればいいとは決して思わないが、個人的には、「ついに、放送局の断末魔の時代が来たか」と感慨深い思いが胸中を駆け巡っているところだ。私が13年勤務した近畿放送は、イトマン事件に絡んで社会的信用が失墜し、30年前に事実上の倒産をしたが、形態は違えど、フジテレビも、同様に社会的信用を失い、凋落の一途を辿っている。
30数年前、地方放送局の人間からすると、フジテレビは光り輝き、テレビ局の星のようなところだった。そのフジテレビが、一タレントの低レベルの問題に絡んで、とんでもないことになっている。まるで、SFの世界をみているようで、古い時代のテレビマンだった私は、呆然としながら、ことの推移を見守っている。

株式会社フォレスト・ミッション 代表取締役、林業経営コンサルタント、経済産業大臣登録・中小企業診断士
我が国における林業経営コンサルティングを構築した第一人者であり、これまで460超の林業事業体の経営コンサルティングに携わる。2015年から、活動拠点を東京から信州・蓼科に移して活動中。