この事件が発生する2日前の1月20日、午前10時頃、私は所用があって長野駅前にいた。事件発生を知ったのは、鳥取出張中の22日夜のことだった。JR長野駅善光寺口のバス停で、刃物を持った男が並んでいた男女3人を次々と刺し、49歳の会社員が死亡するという痛ましい事件だった。偶々、その2日前に同じ場所を通ったばかりだっただけに、「あんなに安全な場所で・・・」と大きな衝撃を受けた。防犯カメラに犯人の姿が映っていただけに、ほどなく捕まると思っていたところ、昨日、矢口雄資容疑者(46歳)が逮捕された。

現時点で、矢口容疑者は黙秘を続けており、動機は不明のままだが、地元の高校を出て、首都圏の大学に進学、IT企業に勤務したが、10年ほど前に地元に戻ったという報道があった。長野駅から3キロほど離れたところにあるマンションの一室に住み、普段は作業服姿だったという近所の人の証言をニュースでみた。長野県警が、防犯カメラの「リレー捜査」で、矢口容疑者を割り出し、自宅にいた同容疑者を逮捕したとのことだった。
逮捕された矢口容疑者は、46歳という年齢よりは、遙かに老けてみえた。往々にして、こういった容疑者が逮捕された際は、しょぼくれた風体になるので、そこは割り引いてみる必要があるが、直感的にはとても「凶悪犯」にはみえず、どこにでもいるような「中年男」そのものだった。すでに、ワイドショーやネットの書き込みなどで、いろいろなコメントが出ているが、この男のこれまでの人生や動機について、あれこれ語る前に、何の罪もない49歳の会社員が、務めを終えて帰宅途中、通り魔によって殺害されてしまったことが残念でならない。彼の家族の悲しみを考えると、こちらまで辛くなる。
矢口容疑者の動機について、私なりの「仮説」は一応もっているが、予断をもって論評する段階ではない。そして、「黙秘する」などと言っても、早晩、その動機を含めた全容が明らかになるだろう。どんな動機であろうと、彼にどんな言い分があろうと、他人の生命を奪ったことは断じて許されるものではない。重傷を負ったもう一人の会社員や切りつけられた女性の「心の傷」も懸念される。日々、懸命に働き、真面目に生きている人たちを、こういった「蛮行」から未然に守る術はないのか、本当に残念でならない。

株式会社フォレスト・ミッション 代表取締役、林業経営コンサルタント、経済産業大臣登録・中小企業診断士
我が国における林業経営コンサルティングを構築した第一人者であり、これまで460超の林業事業体の経営コンサルティングに携わる。2015年から、活動拠点を東京から信州・蓼科に移して活動中。